初の奢られモノ。
上司から「はい!」と手渡されたのは、缶コーヒーでした。
非常に非常に、珍しい体験でした。
わたしが上司と知り合ってから5年以上も関わりをもっていますが、その間になにかを奢られたという記憶はなく、今回がはじめてのことでした。
メシを食べに連れて行ってもらったこともなく、コンビニでデザートやジュースを奢られたこともなく……。
とにかくわたしのなかの上司像は、ドケチでした。
財布を持っていないのかなとすら思っていましたし、その財布すら一度も見たことがなかったので、どうやって毎日を生きているのかさえもわからない類の存在でした。
そんな人から急に缶コーヒーを手渡されて、普通ならここは感動する場面なんでしょうけど、状況が状況だけに懐疑心を抱きました。悲しいかな、これ。
社会の荒波に揉まれすぎてすっかりどこかへ心を無くしてしまったのでしょうかね。素直に喜べない自分がいました。
「これはもしや、なにか意図があるのではないか?」と、変に捉えてしまい。
客観的に見て、わたしもずいぶんと腐った人間になったものだなと、なんだか切ない気持ちになりました。
こうなったのもそもそも一体誰のせいなのか問いてやりたい気持ちではありましたが、切なさがより一層増してくるだけだと思ったのでただちにやめることにしました。
疲れるし。そんなの無駄だってことは百も承知でしたから。
わたしに一体なにを期待しているのかわかりませんが。今さら変に期待されても逆に困りますし。
そもそも缶コーヒー一杯でどうこうできるレベルの問題でもありませんからね。今のこの会社の状態は。
これからこんな形でワイロが手渡されると思うと、少し間合いをとらないといけないと感じましたが。
しかしそう思ったのも束の間、その日を最後に物資が供給されることはけしてありませんでした。
……ですよねー。