2019-04-16

32歳になって人生ではじめて銀歯治療を行った話

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ぼくが虫歯になったのは人生で2度目。

1度目は、記憶が正しければ小学生の頃。なん年生かは覚えてはいない。

つい先月、はじめて金銀パラジウム合金というものを歯に被せる治療をした。

場所は左上の奥歯になる。

ついにぼくも銀歯デビューかと少し残念な気持ちになった。

これがまだ小学生のときなら喜んでいたと思う。銀歯なんだぜー、と……。

今まで人の銀歯を見ても一切うらやましいと思わなかったから、いや、違うかな。

むしろ今まで歯になにか特殊なことを施していなかったぶん、加工された異物が口の中にずっといると思うとすぐには受け入れられなかった。

実体の見えない不安に襲われた。

 

会社の人や友人など周りの人たちは定期的に歯医者へ行くことがある。

えっ、きちんと歯を磨いていないの?と疑問にさえ感じていたこともあった。

毎日丁寧に歯を磨いてさえいれば、わざわざ歯医者へ行く必要性はないのではと思っていた。

生まれてからこのかた、歯医者へ行った経験がさほどなく歯の健康だけが売りだったぼくは、歯医者へ行くこと自体が理解できなかった。

そんなぼくも、今年で32歳。

虫歯になったのが、年齢のせいなのかどうなのかはわからない。ただ思い当たる縁はあった。

あれは連日、仕事の疲れもあってか、歯を磨く間もなく寝てしまうことがあった。少しだけ……少しだけ……、横になって仮眠をとろうとしていた。でも、ダメだった。

毎度、いつ寝てしまったのかわからない状況で、そんな中でも歯に対しての気配りは欠かさなかった。

大抵は夜中の2時か3時にパッと起き上がり、すぐに歯を磨いてまたそのまま布団の中へ入り寝ていた。

歯医者へ行くことが嫌だったというわけではなく、ただ単に健康を守りたいという気持ちから歯に対する意識は人一倍以上もっていたと思う。

寝る前は歯を磨いてからじゃないと落ち着かない性分ではあったが、それも睡魔によってまんまと打ち破られてしまった。

 

食事をすると、ときたまズキーンと痛みが走ることがあった。

この痛みはなんだろうと思い、今まで通り丁寧に歯を磨いてさえいればいつかは治ると思っていた。

それに普通の人よりも歯の健康が優れているんだから、とおごっていたのもある。

歯が傷みだしてからは、いつも以上に丁寧に歯を磨いた。

いつか必ず治ると信じて、ゴシゴシ、ゴシゴシ、と。

しかし、さすがはこの世。

そう簡単に治ることはなく、むしろ痛みの頻度は増える一方だった。

……現実はそう甘くはないことを思い知らされた。

物を噛むたびに左上の奥歯が痛み、これ以上は我慢できないところで歯医者へ行く決意に至った。

あいにく自宅近くの歯医者は、仕事帰りでも通院できる時間帯まで営業をしていた。

ラッキーと思いつつもぼくはその時間帯を待たずして、歯の治療を早く終わらせたかったのもあったが、なによりご飯がおいしく食べられない苦痛に耐えられず、わざわざ会社を早退をしてまで歯医者へ向かうことにした。

 

小学生の頃に歯医者へ行ったことは覚えてはいたが、実際治療した内容までは覚えてはいない。

歯医者の待受室で待っているとき、歯をいじられてしまう未知の感覚に恐怖を感じていた。

1回目の通院は、問診にはじまり、検査、そして治療の流れだった。

検査では、あわよくばなんともなかったという診断結果を期待していたが、医者からはあっけなく虫歯宣告を受けてしまった。

そのあと面白いことに、治療についてどうしますか?と尋ねられた。

歯が痛むんだから、えっ?治療を受けるに決まっているじゃないか、なにあたり前のことを聞いているんだ、とそのとき思った。

ただ、あとになって考えると、あれが説明と同意(インフォームド・コンセント)ってやつなんだろうなと思った。

確かに、患者の同意がなければ勝手に治療するわけにもいかないので、業務上致し方ないことと理解した。

ぼくはお願いしますと歯の治療を頼んだ。

心の準備が整う間もなくすぐに処置がはじまった。

容赦なく看護師の手がぼくの口の中へのびていった。

いやいやいや、いくらなんでも早いだろうと思いつつ、不安な気持ちを知ってかしらずかお構いなしにたんたんと処置は進められた。

 

ウィーンと鳴り響く歯医者独特の音色は、子どもに嫌がれる音として有名ではあるが、ぼくはどちらかといえば感触のほうが嫌だった。

口の中をいじられる感覚は、今まで感じたことがないものだった。

経験したことがないなんともいえない気持ち悪さに、何度もオエッとなりそうになった。

極めつけは、歯を削られる瞬間。

これでもかと歯をエグられ、痛みも今まで経験したことがないほど尋常ではなかった。あまりの痛さに冗談抜きで声が出そうになった。

痛みには強いほうだと自負しているが、もう2度と虫歯にはなりたくないとこのとき心に強く誓った。

治療が終わり、なんとも言えない疲労感に見舞われた。

この気持ちはなんと表現すればいいだろうか。これでぼくはもう処女ではいられない、たとえるならそんな類のものであった。

 

1回目の治療が終わり安堵したのもつかの間、一週間後には2回目の治療が行われた。

1回目の治療では、歯を削ったところの型取りが行われた。

2回目の治療では、金銀パラジウム合金で作られた銀歯の取り付けが行われた。

2回目にでもなると慣れるかなと思いきや、前回の激痛がトラウマとなってしまい、頭がハゲてしまうんじゃないかと思うほどのストレスに襲われた。

2回目の治療は、1回目以上の恐怖でしかなかった。

果たして耐えられるだろうか。でも、耐えるしかない。

そんな葛藤と戦いながらさっそうと第2回戦がはじまった。

待ったなしの一本勝負。

やるかやられるかの瀬戸際で、ただただ医者や看護師の腕を信じるしかなかった。

何度も噛み合わせを行い、看護師の手によって徐々に銀歯の成形が行われた。

内心まだかまだかと思いつつ、いち早い治療の終了を心から望んだ。

来たる、銀歯の最終仕上げ。医者の手によって銀歯の接着が行われた。

ゴリゴリっと歯から伝わってくる効果音に、まるで精密部品でも植え付けられているじゃないかと、気持ち悪さを覚えた。

 

治療を終えたあと今回の体験について感想をいうなら、いじるだけいじられ醜態をさらけ出したような無残な気持ちになった。ただただ、この言葉に尽きる。

歯医者には近づきたくない、行きたくない理由がこの歳でやっとはっきりとわかり、やっぱり何事も自分の身で経験することが1番かなと思った。

子どもがいう歯医者の音が怖いというのもあれだけど、治療の痛みによる恐怖がその裏には隠されていることに気づけ、経験値のひとつとして考えれば貴重な体験をしたと思う。

ただしこれだけは言える、もう2度と虫歯にだけはなりたくないってことを……。

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