映画『空白』交通事故で娘を亡くしてしまった父親に同情と苛立ちの両方で揺れ動いてしまう作品
上映時間 | 107分 |
製作国 | 日本 |
監督 | 吉田恵輔 |
音楽 | 世武裕子 |
配給 | スターサンズ KADOKAWA |
公開日 | 2021年 |
主な出演者 | 古田新太(添田充) 松坂桃李(青柳直人) 田畑智子(松本翔子) 藤原季節(野木龍馬) 趣里(今井若菜) 伊東蒼(添田花音) 片岡礼子(中山緑) 寺島しのぶ(草加部麻子) |
いやー、これはなかなかの衝撃作だった。
世間を巻き込み騒ぎ立てるマスコミによる情報の捏造、自らの非と向き合う怖さに怯え頑なに加害者を犯人扱いに仕立てる父親。この両方の存在が、ほんと目障りだし、人でなしだなと思った。
鑑賞する側は物事の全体像が見えてしまうから尚更そう思う。この監督、感情へ働きかける見せ方がうますぎる。苛立ちと、同情の駆け引きにたくさん惑わされてしまった。
あらすじ
スーパーの店長に万引きを見咎められた女子中学生は、逃げて車道に飛び出したところ、凄惨な事故に巻き込まれて命を落としてしまう。彼女の父親である添田は、事故の原因となったスーパーの店長を追い詰めようと、マスコミを巻き込みながら激しい憎悪をエスカレートさせていく。
引用元:Google
感想
衝撃もなにも、ひと安心したかと思ったら、さらに追い討ちをかけるかのような交通事故には一瞬画面から身を引いてしまった。正確には反射が働いた。
それくらい、「えっ!?なにこの展開。まぢで?そんなのありなの?」て思ってしまった。脳天に激震が走ってしまうような映像を見せられて、まず気分がいいわけがない。
えげつないものを見せられたあとで、その後に起こる出来事を想像するだけも、怖い、怖すぎる。いや、むしろ、どんなことが待ち受けているのか想像できない怖さが身を纏った。
それは青柳直人の表情を見れば歴然で。「やっちまったなー」という軽率な心をもってたのはドライバーだけ。事情聴取のシーンでも、「だから、急に出てきたんです。急に止まれるはずがないでしょ!」的なことの訴えだけで、はい、さいならーと過去の存在となる。
その扱い方だけは、ちょっとやめてーとなった。実際問題、トドメを刺してしまったのはそのドライバーなんだし。もっと添田充との絡みが見たかった。むしろ、無念を晴らすべく殴らせるべきだった。仮にも1人の命を奪ってしまった人間なんですよ。関係ないで済ますわけにはいかないでしょ。
だけど、添田充に対しては同情への感情が生まれなかったのは、一貫して苛立ちや嫌悪感が大いに邪魔をした。
その人間性というのがあまりにも身勝手だし、自己中心的で、人を労う気持ちはなく、世界の中心はいつも自分だと思っている。もちろん、こんな人間とは関わりたくない。
大胆にも、道路工事の歩行者用の通路を無理やり車で通るという常識のなさを発揮し、唯一の従業員である野木龍馬が仕事のミスをしたときに浴びせられる怒鳴り声は耳障り&不快でしかなかった。辞めたくなる気持ちもわかる。僕なら間違いなく秒で辞める。ついていけない。ついていこうとも思わない。
さらには、話しかけづらいオーラ全開の食卓場面での娘に対する関わり方では、生きづらさを完全に露呈していたので苛立ちを覚える。
このどれもが、最低の人であり、最低の社会人であり、最低の父親であるという烙印を押してた。こんなのを見せられて同情など抱けるはずがない。言葉が悪くなってすまないが、ほんと、クズ。
娘は万引きをするような人間じゃないと頑なに訴えても、そもそも万引きをしてしまう家庭環境にこそ問題があり、その非を認めない愚行には人間性の小ささを感じさせる。
本作のいやらしいところは、添田充という男の人間性を見せられたあとで悲惨な出来事へと巻き込み展開していくので、冒頭でも言ったように苛立ちがあるなかで同情へもっていくのが限りなくうまい。嫌でも負荷抵抗力が生まれてしまうので、ある意味鑑賞者にとっても頑固さをもたされてしまう。それも自然に。
娘のことで憤慨する添田充の姿は見ていられない。「お前に娘のなにがわかんだよ。母親のほうがよっぽどよき理解者じゃねーかよ」そんな罵声すら浴びせたくもなる。
しかも娘からの学校の相談も勘違いだとわかっても認めないし、スーパーで万引きされたマニュキュアだって、部屋で見つけたときにわざわざ夜中に公園のゴミ箱に捨てて証拠隠滅を図ることまでして、ある種の監視カメラ的な役割を担っている鑑賞者の立場からして、ただただ往生際が悪い輩にしか見えなかった。
少なくとも娘の交通事故をきっかけに苦しんでいる人は添田充だけでなく、交通事故を起こした女性の被害者、その原因をつくったスーパーの店長、それらを取り巻く人たちがいる。メディアから嘘の情報まで流され、精神的にも追い詰められた彼らは無理心中してしまう者もあらわれる。添田充よりも、むしろ同情は周りの登場人物へと向けられる。
償い方がわからないから謝るしか今のところ手立てがないという悲痛な訴えをみせるスーパーの店長が気の毒すぎて、ほんと心苦しくなってしまった。それは女性の被害者に対しても同じ感情を抱く。かなり、ずっしりとくる。
自分が正しい認識をもっているという添田充の態度にはことごとく苛立ちますが、その一方で彼の気持ちもまったくわからないことではない。
娘の死に直面し強がり本当は苦しんだろうなという気持ちに寄り添ってしまうと、この人を認めてしまう自分が許せないのと、素直に認めて同情してしまう狭間で心が揺れて複雑な気持ちにしかならない。
無力って、きっとこういうことなんだろうなーと思いながらも、おかげで僕の心も一時ぐちゃぐちゃのまま。整理がつかなさすぎて、最後添田充の「疲れたなー」というひと言に、なんだか救われたような気がした。
最も○ ○で賞
出演者のなかから、個人的に目に留まった人物を勝手にピックアップしてかっこいいで賞&美しいで賞という名目で表彰しています。表彰の基準は様々で、見た目だけでなく役柄も重要視した上での判断となります。
最もかっこいいで賞
野木龍馬役の藤原季節を選んだ。選んだ理由は、あきらかに人間性のよさがあらわれていた。ろくでなし人間代表添田充の1番の理解者でもある。
作中で彼に対する怒りの感情をあらわにするシーンがありつつも、最後の最後まで見捨てることなくちゃんと向き合う姿はまぢですごい。
よっぽど人間ができているんだと思う。添田充の扱いもうまく、彼を支える姿はこの賞を選ぶに値する。
[box class=”glay_box”]名前:藤原季節(ふじわら きせつ)
生年月日:1993年1月18日 (年齢 29歳)
出身地:日本(北海道)
身長: 173cm
Twitter:@kisetsufujiwara
Instagram:@kisetsufujiwara
オフィシャルサイト:藤原季節 公式ブログ Powered by LINE
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[aside type=”boader”]佐々木くんの青春映画。一般的な青春映画とは違って、独特な雰囲気を醸し出したエモーショナルな物語が描かれている。
ドラマ「his~恋するつもりなんてなかった~」のその後を描いたLGBTQ映画。同性愛、異性愛、親子愛の様々な愛の形が、温かい日常のなかで描かれている。
内輪ノリが全開に描かれた作品。世間的には青春時代が終わったとしても、根っこの部分はずっと同じで青春は続いている。それが男という生き物で、いつまでもバカ騒ぎをしている男たちと、昔のようにはいられないキザな男の物語を描いている。
[/aside]最も美しいで賞
中山緑役の片岡礼子を選んだ。選んだ理由は、添田充に対する謝罪シーンがまぢで心にジーンと響いてしまうくらいやばかった。人でなしの添田充でさえ涙を浮かべるレベルで。
添田花音の交通事故を起こした娘が、罪の重さに耐えられず自らも命を落としてしまう状況下で複雑な心境にも関わらず、芯の通った謝罪をするという行為、言動に鳥肌が立ってしまった。
ほんと、心に深く突き刺さるものだったので、これだけでも絶対観たほうがいい。
[box class=”glay_box”]名前:片岡 礼子(かたおか れいこ)
生年月日: 1971年12月20日 (年齢 50歳)
出身地:日本(愛媛県)
身長: 160cm
Twitter:@jourr
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[aside type=”boader”]渚のシンドバット、ハッシュの橋口監督の初期作品。ゲイバーで身体を売っている一人の青年と、彼を取り巻く男女の人間模様が描かれている。監督自身もゲイということでリアリティーのある内容に仕上がっている。
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ベストセラー作家「吉田修一」の最高傑作と評される「犯罪小説集」が映画化された作品。綾野 剛、杉咲 花、佐藤 浩市ら豪華キャスト陣による重厚なドラマが描かれている。
[/aside]さいごに
けして軽率な行動ではなかったスーパーの店長の行動をきっかけに歯車が動き出すという、全編神妙な面持ちで見守ることとなってしまった。観終わったあとも、けして気持ちのいい内容ではないので、心にぽっかりと穴が空いてしまったかのような状態に陥った。すごく考えさせられた。
邦画作品のなかでも、これは久々に心がかき乱され、誰にでもおすすめはできませんが、興味のある方であればぜひ鑑賞していただきたい。
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